支える会PRESS

主要農作物種子法が支えていたものと私たちにできること

たねと食とひと@フォーラム事務局長 西分千秋

たねと食とひと@フォーラムでは、在来種の作物を大切にしながら、地域性に富んだ多様で持続可能な食と農、社会をつくっていくことを目的のひとつとして活動しています。農家が栽培したい品種を選択できること、消費者が食卓から未来をつくるために選ぶ権利を持ち続けること、そのような立場から「主要農作物種子法(種子法)」の廃止に反対しました。

 しかし、今年4月の国会で種子法の廃止が可決。2018年4月に種子法廃止法が施行されることになりました。決定した今となっては都道府県が担っていた役割が後退することのないよう関心を持ち続ける一方で、改めて農と食のあり方、種子のあり方を考える必要があります。 
 突然出てきた種子法廃止という問題について4月から7月にかけて学んだこと、そこで見えてきた問題について報告します。

 種子法は1952年4月サンフランシスコ講和条約により日本が主権を取り戻す中で、当時の政治家や農林関係の官僚が食料の確保が大事だと考え、同年5月に制定された法律。目的は、国・都道府県が主導して優良な種子の生産・普及を進めること。主要農作物(稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆)の優良な種子の生産及び普及促進、品質の改善を図るための圃場審査など国の管理の下、都道府県が行うべき役割を定めたものです。
 稲・麦・大豆の種子を対象に自都道府県で普及すべき優良品種(奨励品種)の指定、原種及び原々種の生産、種子生産圃場の指定、種子の審査制度等を規定しています。

 国際的には、基本的人権の一つとして保障された国際ルールの上にあると考えられます。

国連人権宣言を具体的にした条文「経済的、社会的及び文化的権利に関する社会権規約」の中に、『技術的及び科学的知識を十分に利用すること並びに天然資源の最も効果的な開発及び利用を達成するように農地制度を発展または改革することに食料の生産、保存及び分配の方法を改善すること」とあるからです。


●種子法における都道府県の役割
 都道府県は自都道府県で決めた主要農作物の「奨励品種」に対し、下記 銑イ棒嫻い鮖つことが種子法の下に定められています。
 国の研究機関、各都道府県、民間企業によって開発された品種(種子法の適用外)を都道府県は

〇邯馨譴巴楼莎ぞ檗ε攵躱魴錣覆匹謀し普及すべき優良な品種(「奨励品種」)を決める試験

⊂励品種として決定した品種の原々種・原種の生産

種子生産ほ場の指定

だ源困気譴深鏤劼凌該

ゾ励品種の生産者または奨励品種生産者が生産を委託した者に対する助言、指導を行うことになっています。

 主要農作物の種子は、「原々種」→「原種」→「一般種子」の順に生産します。


  
原々種
原子生産の基本となる種子。都道府県の試験研究機関で生産管理します。

原種
原々種を播種し、生産された種子。都道府県の試験研究機関で生産するほか、一部は、都道府県が指定したほ場において、採種組合等が生産します。

一般種子
原種を播種し、生産された種子。この種子が一般の農家へ販売されます。都道府県が指定したほ場において、県内の採種組合等が生産します。都道府県が直接生産することはありません。


●種子法と種苗法のちがい
 種子法と種苗法はそもそも目的が違います。種苗法は知的財産権の保護が目的となっています。新品種の保護のための品種登録に関する制度で、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、農林水産業の発展に寄与することと書かれています。  
種子法は既に書いた通り、国および都道府県の責任において、主要農作物の優良な種子の生産と普及促進等を目的としています。但し1986年に種子法改正、1995年に食管法の廃止と食糧法制定により、民間事業者の主要農作物への参入は可能となっています。


●種子法廃止法理由について
農水省の資料によると「主要農作物種子法に基づく奨励品種に指定されれば、都道府県はその種子の増産や審査に公費を投入しやすくなるため、公費を投入して自ら開発した品種を優先的に奨励品種に指定。一方、民間企業が開発した品種は都道府県が開発した品種と比べて、特に優れた形質などがないと奨励品種には指定されず、例えば稲では、民間企業が開発した品種で、奨励品種に指定されている品種は無い状況。その結果、都道府県が開発した品種は、民間企業が開発した品種よりも安く提供することが可能。このように、都道府県と民間企業では競争条件が同等とはなっていないため、民間企業が稲・麦・大豆種子産業に参入しにくい状況となっている。」要するに国が管理するしくみが、民間の品種開発意欲を阻害しているというものです。
種子法廃止法案要旨には「種子生産者の技術水準の向上等により、種子の品質が安定してきているなど、農業をめぐる状況の変化に鑑み廃止する」と書かれています。
種子法廃止法案には、「種苗法の下で、従来通り、都道府県の種子生産に予算が確保されるよう国に求める付帯決議」が採択されました。但し、目的の違う種子法と種苗法の下でこの内容が成立するのか懸念されます。




主 要 農 作 物 種 子 法 を 廃 止 す る 法 律 案 に 対 す る 附 帯 決 議

主 要 農 作 物 種 子 法 は 、 昭 和 二 十 七 年 に 制 定 さ れ て 以 降 、 都 道 府 県 に 原 種 ・ 原 原 種 の 生 産 、 奨 励 品 種 指 定 の た め の 検 査 等 を 義 務 付 け る こ と に よ り 、 我 が 国 の 基 本 的 作 物 で あ る 主 要 農 作 物 ( 稲 、 大 麦 、 は だ か 麦 、 小 麦 及 び 大 豆 ) の 種 子 の 国 内 自 給 の 確 保 及 び 食 料 安 全 保 障 に 多 大 な 貢 献 を し て き た と こ ろ で あ る 。
よ っ て 政 府 は 、 本 法 の 施 行 に 当 た り 、 次 の 事 項 の 実 現 に 万 全 を 期 す べ き で あ る 。

一 将 来 に わ た っ て 主 要 農 作 物 の 優 良 な 品 質 の 種 子 の 流 通 を 確 保 す る た め 、 種 苗 法 に 基 づ き 、 主 要 農 作 物 の 種 子 の 生 産 等 に つ い て 適 切 な 基 準 を 定 め 、 運 用 す る こ と 。
二 主 要 農 作 物 種 子 法 の 廃 止 に 伴 っ て 都 道 府 県 の 取 組 が 後 退 す る こ と の な い よ う 、 都 道 府 県 が こ れ ま で の 体 制 を 生 か し て 主 要 農 作 物 の 種 子 の 生 産 及 び 普 及 に 取 り 組 む に 当 た っ て は 、 そ の 財 政 需 要 に つ い て 、 引 き 続 き 地 方 交 付 税 措 置 を 確 保 し 、 都 道 府 県 の 財 政 部 局 も 含 め た 周 知 を 徹 底 す る よ う 努 め る こ と 。
三 主 要 農 作 物 の 種 子 に つ い て 、 民 間 事 業 者 が 参 入 し や す い 環 境 が 整 備 さ れ る よ う 、 民 間 事 業 者 と 都 道 府 県 等 と の 連 携 を 推 進 す る と と も に 、 主 要 農 作 物 種 子 が 、 引 き 続 き 国 外 に 流 出 す る こ と な く 適 正 な 価 格 で 国 内 で 生 産 さ れ る よ う 努 め る こ と 。
四 消 費 者 の 多 様 な 嗜 好 性 、 生 産 地 の 生 産 環 境 に 対 応 し た 多 様 な 種 子 の 生 産 を 確 保 す る こ と 。 特 に 、 長 期 的 な 観 点 か ら 、 消 費 者 の 利 益 、 生 産 者 の 持 続 可 能 な 経 営 を 維 持 す る た め 、 特 定 の 事 業 者 に よ る 種 子 の 独 占 に よ っ て 弊 害 が 生 じ る こ と の な い よ う 努 め る こ と 。
右 決 議 す る 。






●突然の廃止法案提案と実質的な議論なし
規制改革推進会議において、2016年9/13、第1回会合では一切言及なし、9/20第2回、10/6第4回議論なし、2017年1/30第9回、廃止法案の骨子説明に専門委員から「結構だと思う」の一言、2/14第10回、廃止法案の概要説明。都道府県の役割について、「農業競争力強化支援法案」に都道府県が有する種子生産に関する知見の民間事業者への提供を促進するとの規定を入れたという説明がありましたが議論はありません。
国会の審議では、衆議院農林水産委員会において、2017年3/8、野党議員から2007年の規制改革会議地域活性化ワーキンググループ会合(4/20)の議論での政府答弁について言及がありました。政府答弁は「奨励品種制度は新品種の生産、販売、普及の妨げになっていない」、「各県の農業を育てる立場から品種の育成に力を入れている。民間が入るなら技術的に違った分野、特色のある品種になるのではないか」などです。3/23の委員会では5時間の審議で打ち切り、賛成多数で可決。3/28の衆議院本会議で賛成多数で可決されました。参議院農林水産委員会においては、4/11〜13に5時間の審議、2時間の参考人質疑の後、賛成多数で可決。4/14の本会議で賛成多数で可決、附帯決議が付き法案成立となりました。

●廃止後に懸念されること
‥堝刺楔の主要農作物種子事業に関する予算をどう確保するのか。予算措置の根拠になっていた種子法の廃止によって、当面は都道府県の自主的判断に基づくとしているが、当面の継続的な実施はあっても中長期的な保証はありません。当面とはどのくらいの年数を指しているのか不明です。
∈8紂国が行う措置として、農業競争力強化支援法は、民間ビジネスの支援であり、二重の収奪の恐れがあります。
E堝刺楔における品種開発の継続をどう担保するのか。中長期的に公的研究開発の弱体化は必至であり、公的機関が基礎応用研究、民間企業が品種開発という役割分担的で起こる落とし穴があるのではないでしょうか。
ぁ崚堝刺楔における奨励品種制度」及び「都道府県及び全国の種子計画策定」を継続するのか、また継続する場合どう担保するのか。

●私たちにできることは何か
 たねと食とひと@フォーラムでは、実態を把握するところから始めようと、都道府県に対してアンケート調査を行うことにしました。同時に学習会や種子採種圃場の見学等を実施し、農と食のあり方を考える活動を続けていきます。

ヽ禿堝刺楔の主要農作物事業に対する予算措置を継続的に監視する。
⊆舁彷精酳種子制度の役割・意義を正しく理解する。
8的種子事業の必要性を国、都道府県、農協に対して事業継続を応援する。
っ楼茲版清箸鮗蕕覬親亜平料主権)と一体となって種子を守る運動を進める。日本の自給率は米98%、小麦15%、大麦・はだか麦9%、大豆7%(食品用25%)。在来種を守る取り組みや種採りの取り組み、ネ機農業の実践とも連携を強めつつ、公的種子事業を守る運動についてすそ野を広げる努力をする。Ω的制度を民主的に再構築しながら守る、国に対して「本来の責任」を課す。



●まとめ
最後に龍谷大学の西川芳昭教授が書かれている『未来へつなぐたからもの』(風媒社)「食料主権を支える種子(タネ)を誰が守るのか」の中に、「食料主権は消費者である国民や生産者である農民が、自主的に食料にかかわる意思決定を行う権利です。基本的に私たちは一人一人が何を食べるのか、生産者から見れば何を作るのかを自分たちで決める権利は、基本的人権の一部であるという考え方です。そのためには種子(タネ)が必要である。」とあります。
種子法廃止は国が良質の種子を国民・市民に供給する義務を放棄することであり、食料の安定供給に責任を持たないことを意味します。種子法廃止の議論の中で、食料主権という非常に重要な問題について十分な議論がされていないことに強い不安感を持ちました。
種子法廃止法案に対する附帯決議(別表)は、現行制度を維持し、廃止後に起こり得る問題について歯止めをかけるような内容になっていますが、附帯決議に強制力はないため、市民による継続的な監視が必要だと考えます。私たちにできる事から取り組んでいきたいと思います。

                       以上

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