大豆100粒運動実践報告会 [2011年2月5日 於:tvk会議室(横浜市)]
【報告3】 長野県松本市立大野川小学校 児玉先生
6年生8人を担当しております。大野川小学校は中学校と併設されています。いままでの2校の発表をすごいなあと感心して聞いておりました。学校の感じは、みなさんとまた全くちがうのですが、雪が多く降り、すぐ近くに山が迫っています。小学生が29名・中学生18名全校生徒合計47名です。私が担任している6年生は一番多い学年で8名、この写真は最近撮影したものです。
校歌にも歌われているのですが標高が12 00メートルほど、近くには上高地があり、 3・4年生は遠足で上高地に行きます。私 がこの学校に来たのは今の6年生が3年生 の時です。3年生の時からこれまで私が担 任してきました。3年生から始まる総合的 な学習の時間で、何をやるか、と考えたと きに、2年生の時に自分たちが育てた大豆 で豆腐を作ったということがわかりました。 では今年何をしたいかと聞いてみると、今 年も大豆を育てて、味噌やきな粉、醤油を 作ってみたいという声があがりました。そこで、図書館で調べたり、お家の人に聞いて作り方を調べてみたところ、味噌なら何とか自分たちでも出来そうだということがわかり、挑戦してみることに。大豆の栽培については、近くにたくさん畑がありますので、一区画を借りました。
この写真は草取りをしているところです。この地域は 鳥の被害はあまりないのですが、山が近いのでサルの 被害があります。農家は電気柵を設置したりするので すが、学校は予算がないので、子どもたちは工夫をし てカカシを立てたりしています。やはり収穫が近くな るとサルが出ますので、周囲を白い布で覆ってなんと かしのぎました。これが3年生の時です。このときは よい大豆も穫れて、さあ味噌を作ろうということで、 教えてもらう人を求めて松本市街におりて、3軒の味噌工場を見学しました。その中で、子どもたちは大久保醸造店の大久保さんに教えてもらいたいという希望をもちました。その理由はふたつあり、まず大久保さんが古くからこの学校の地域と交流があり、子どもたちも保護者も安心して大久保さんにお任せできると考えたこと。もうひとつは、大久保さんが手づくりにこだわっていらっしゃるということです。大久保さんに教えて頂くと決めた後、もう一度大久保さんを訪ね、実際に仕事場を見せてもらって、作り方を習いました。早速学校に戻って大豆をゆでて、計ってつぶし、味噌を造りました。天地返しを2回ぐらいして完成し、きゅうりにつけて食べたりしました。
長野県では、総合的な学習にからめて、5年生で米作りをやる学校が多くあります。子どもたちも5年生になりましたが、大野川小のまわりには田んぼがありません。標高が高く、山に囲まれて日照時間が少ないためだと思われます。では今年どうしようかと考えたとき、少し下った地域には田んぼがあり、姉妹校の奈川小学校が田んぼを借りているので、そこでの米作りに一緒に参加させてもらうことになりました。それで手一杯かな、と思っていたのですが、子どもたちは大豆もやりたい、というので、引き続き大豆栽培もやるこ とになりました。
ところがこの年、大豆はうまくできませんでした。みのったのは綿棒の先ほどのちいさなもので、なぜ失敗したのか考えてみたのですが、よく考えずに選んだ品種が良くなかったのです。先ほどの2校でも地大豆のお話が出ましたが、この地域では早生の品種が向いているのに、まいたのは晩生の品種だったのです。子どもたちは大変残念がり、今まで育ててきた大豆なので、一粒ずつ大事にしたいという思いが強かったようです。よく実った大豆は、乾燥すると叩けばはぜてサヤから出てくるのですが、本当に小さな大豆だったので、叩いても脱粒できず、子どもたちは一つずつサヤをむいて実を出しました。
子どもたちとしては、「あまりうまくできなかったけれど、大切に育てた大豆でなんとしても何か作りたい」、という思いがあったのでしょう。小さな大豆で何を作ろうと考える中で、大久保さんの蔵に見学に行ったこと、大久保さんは味噌も醤油も作っていたなあ、ということを思い出し、今度は醤油に挑戦しよう、と言い出しました。
しかし、私は正直言って迷っていました。 というのは、大久保さんに醤油を作るには醤油麹を作る ために三日三晩かかるということを聞いていたからです。 でも、私自身も作ったことがなかったので、実際に自分 たちの手で作れるということを考えただけでわくわくし て、再び大久保さんのところにうかがい、醤油のにおい が立ちこめ、大きな樽の並ぶ蔵で工程を教えてもらいま した。この写真は麹にする小麦を炒っているところです。
ここに至るまで、ちょっと行き詰まった場面がありまし た。お店で小麦粉は売っていても、小麦は売っていない のです。子どもたちは電話帳を調べて見つけた店で小麦 を買って、こうやって炒りまして、粉にしました。最初 は簡単に考えていたのですが、すり鉢でするのは大変で、 苦労して粉にし、大久保さんからもらった麹を加えまし た。大豆をゆでて熱をさまし、平げたところです。
ここに麹を加えるのですが、醤油麹を育てるには30度から35度に三日三晩温度を保たなくてはなりません。麹の働きが活発になると温度が上がるのですが、あがりすぎると納豆になってしまいます。まず、どこで三日三晩やるのかという場所の問題。そしてどうやってお家の方の了承を得るかということが大きな問題になりました。昼間も夜も管理が必要なので、場所は学校にしました。校長・職員会に了承をもらい、次は各家庭です。子どもたちの中には放課後の習い事がある子もいて、放課後学校に泊まるとなると、習い事・夕食・入浴をどうするか、という問題があります。
そこで、学校が終わった後は一旦家に帰って夕食・入浴、そして宿題をすませて、翌日の学校の準備をして夜9時に学校に来るという方法を提案しました。私も4年目でしたので、保護者の方からもご理解をいただいて、了承して頂きました。ただ、ご家庭からは、三日三晩徹夜というわけにはいかないので、 睡眠時間は確保してほしいという要望がありました。 そこで、三日間徹夜するか、時間をずらして当番制に するかと子どもたちと相談した結果、最終的には私の 判断で夜9時から1時まで子どもたちが管理し、2時 から朝までは私が温度管理をすることにしました。子 どもたちは1時に寝て、朝7時前に起きて調理室で朝 食をつくって食べ、そのまま授業に向かうという形で す。その3日間で、寒いときは電気毛布をかけてあた ため、授業の合間にも温度を管理します。温度が高い ときは新聞紙に霧を吹いて上にかけます。1時間ご とに、4つの箱の温度を記録していきました。
これ が完成した醤油麹です。(次頁)色も最初とずいぶん 変化して、手ですくうとふわあっとけむりがたちま す。つぎは、塩水をすり込む作業です。写真のこの 男の子は笑っていますが、かなり濃い塩水なので手 にしみます。この笑顔は苦笑いですね。大豆もかな り固くなっているので、力のいる作業です。全員で 交代しながら作業をしました。それが、次の日にな るとこんなに色がかわります。その日から、醤油当 番を決めて、朝晩樽を混ぜます。土日は当番が持ち帰ります。これは、音を聞いているところです。発酵がはじまって、樽の中で プクプクと音がするのです。かわるがわる、樽に耳を当てて8人が音を聞いていました。子どもたちも「火を使っていないのになんでプクプクするの」「そういえば大久保さんが発酵するって言ってた」「微生物のはたらきだ」という声が出ました。このようにどんどん変化していくのが面白かったですね。
醤油麹 | 塩水すりこみ |
醤油麹 |
本来なら、年を越して6月に絞るのが一番いいと言わ れましたが、6年生で卒業してしまうので、早めですが、年末に絞ってお正月料理に各家庭で使ってもらう うことにしました。量も少ないので教室でつぶし、さ らしの袋に入れて天井からつるします。ぽちょんぽちょんと音がして、一晩経ってもまだ滴っています。子どもたちはその音を聞くのも楽しみで、授業中も静か にその音を聞いていました。
これが残ったもろみです。 絞った醤油は、ボウルに4杯。絞りはじめと最後と 発酵の音を聞く では色の濃さが変化するのも不思議でした。次に火入れです。ここで温度が高すぎると焦げてしまって台無しになるので、大変緊張感をもって2時間くらいかけて温度を測りながら行いました。それぞれ持ってきた瓶を煮沸して瓶に詰め、早速お餅につけて試食です。6年生はこうやってお餅で食べましたが、他の学年の子どもたちにも配りたいと言うことで、今年栽培したエゴマと小松菜のおひたしに使って、6年生の手づくりだよ、ということで全学年で食べました。みんな喜んでくれたので、子どもたちもうれしそうでしたね。もろみは、大根につけて食べました。つけ込んでも美味しいと言うことで、いろいろな野菜を漬けてたべたりもしました。魚や肉も漬けて良いと言うことなので、最後の楽しみに取っておこうと思います。
火入れ |
今回の醤油造りは、子どもたちにとってはもちろん、 私にとっても大変幸運でした。条件・環境にも恵まれ ていました。まず、1クラス8人という規模であった こと。校長が学校に子供を泊めることを許可して、保 護者も認めてくれたこと。また大久保さんが常にアド バイスしてくれたこと。これが揃ったからこそできた ことでした。また、この4年間の始めに、豆腐や味噌 造りの体験を経たことが醤油造りに結びついたのだと思います。さらに、3年生の時からこれまでいろいろ な食べ物にふれてきたことも今回の活動につながったかな、と思います。最初にご覧いただいたような環境にあるので、周囲でいろいろな食べ物がとれます。
最初は私から、コレを食べてみよう、あれを食べてみようと声をかけていたのですが、しばらくすると子どもたちから、「そろそろコレを食べる季節じゃない?」「とって調理室に行こう」と言い出すようになりました。春のアケビ、ウド、カラマツソウ、ホシアブラ、シイタケ(中学生が敷地内で育てています)、ゼンマイ。ワラビ取り遠足というのがあるのですが、ウチのクラスだけは「ゼンマイも取ってこいよ」と言って、ゼンマイも取ってこさせて食べました。そしてタラの芽。このような活動の中で「全部取っちゃいけないよね」ということも学んで、このタラの芽も私の分も入れて9本だけです。そしてツクシ、フキノトウ、ワラビ。あく抜きの方法も考えて、昔ながらのワラ灰を使ってやってみました。ヤマブドウの芽。夏にはヘチマを炒めたもの。夏はあまり食べるものがなくて、3・4年生の時には学校の敷地内にいた地蜂を食べてみました。秋になって、サツマイモのツル。イモは他の学年が食べるのですが、ツルが残るのでウチの学年がいただきました。また、敷地内の栗で栗ご飯を作りました。スモモは、生で食べたり、今年は焼酎に漬けて「20歳になったら一緒に飲もう」と言って教室の後ろに置いてあります。挑戦してうまくいかなかったのがトチの実でした。乗鞍で日本ミツバチの養蜂をしている方に様子を見せて頂いたりもしました。秋にはアケビの実を取り、皮もゆでて食べました。ハナビラタケというキノコもたべました。4年間続けてやったのが梅です。学校内に1本だけ梅の木があって毎年取るのはウチの学年しかいませんので、こうやって収穫して、へたを取り、梅ジュースや、今年は梅酒にもしました。
このように普段から四季折々いろいろな食べ物にふれてきたことで、醤油造りに際しても自然と自分たちの手作りで作ってみようということになったのだと思います。自分たちの地域でとれるものをとれる季節に食べる、ということも感じてくれたと思います。
ここまで見守ってくださった大久保醸造店の大久保さんには、本当に感謝しています。 いろんな方にお知恵を貸して下さったみなさんのおかげでここまでの実践そして報告をすることができました。ありがとうございました。